フォークリフト運転技能講習 実技


実技の前

2日目は実技だ。朝、前日学科講習が行われた部屋で実技講習に向けたオリエンテーリングが行われた。受講者は3つの班に分けられる。実技の講師は3人で、一人の講師が受講者10人程度を担当するようだ。大型特殊免許を有する人は3つの班にそれぞれ振り分けられた。

実技講習は24時間のスケジュールが組まれている。大型特殊免許(カタピラ限定を除く)を有する場合は、初日のみの受講で終了する。走行に関する技術は既に習得している、ということからの措置らしい。

実技に使用されるフォークリフトは日産アグレス20のようだ。2007年頃に発売された。最大積載は2トン、ディーゼルエンジン、オートマチック仕様である。



実技講習はフォークリフトの主要部分の名称確認から始まった。基本構造、動きの特異性などの説明後、講師による基本操作の説明と基本操作の手本が示された。

全受講者には前日、「フォークリフト実技基本操作法」と題するペーパーが配布されていて、熟読が指示されていた。77項目に及ぶ操作を正確に実技すれば合格するのだ。しかし、ペーパーに並ぶ項目以外にも講師からは教えがある。手の動き、声の出し方、視線の動き、マスト高の合わせ方など、具体的操作方法である。体で覚える、講師が度々口にした言葉だ。



基本動作

大型特殊免許を持つ人優先で実技講習は始まった。通常3日間で行われる実技講習後修了試験が行われるが、大型特殊免許を持つ人は1日目の終わりに受けなければならないからだ。とはいうものの、受講者すべてが順次指導を受けていく。

(1)駐車ブレーキ
「フォークリフトの実技基本操作」を読み込んでいると、直接の記述はないものの参考となる共通する基本動作があることに気づいた。そしてまた講師からも講習の中で同趣旨の発言があった。フォークやマスト操作を行う際は必ず、駐車ブレーキを引き前後進レバーを中立にすることである。この基本操作はすべての実技で共通する。

(2)安全確認
大型特殊免許の試験でもそうだが、安全確認は怠ってはならない。どの時点で安全確認を行うかは基本操作法に記述がある。安全確認は指差呼称で行う。指を差し、顔と視線を向けて、声を上げて確認する。このとき、言葉を間違えてしまうことがあるが、気にしないほうがよいと思われる。
例えば「右後方よし」と発しなければならない場合に「左後方よし」と発しても構わない。重要なのは必要な方向の安全を確実に確認することである。

(3)フォークとマストの位置
フォークリフトを走行させる際にも共通する事項がある。フォークを地面から5cmから10cmほど上げ、マストをいっぱいに後傾させるのだ。これは荷を載せて移動する際も、空荷の場合も同様だ。

(4)ハンドル操作
ハンドルにはノブがついている。ノブは必ず左手で持つ。左手で左後方確認を行っていたり、駐車ブレーキ操作などを行っているときは右手でハンドルを握っていなければならない。つまり、乗車中は左右どちらかの手でハンドルを握っていなければならないのだ。

さらに、前進、後進を問わず、フォークリフトを走行させる場合はハンドルのノブを左手で持ち、左手のみで操作しなければならない。右手は常に右膝の上に置いていなければならない。左手のみの片手運転が基本だ。




スタート

フォークリフト実技基本操作法に記された77項目はいくつかに区分できる。先ずはスタート地点の動きだ。
大型特殊運転免許を持つ方もそうでない方も、講習の最後には修了試験が行われる。修了試験で試されるのは、架台に用意された1トンのコンクリートの塊をフォークリフトで持ち上げ、決められたコースを周回し再び架台に戻すという一連の動きだ。

スタート時点での操作関連事項は10項目である。
1 乗車時に車両の前後で安全確認を行う。
確認位置・・・車両の前面及び後面より行う。指差呼称 前方よし・後方よし
2 正しく基本通り乗車する。
乗車方法 左手でヘッドガードの握り手を握り、右手は座席の背もたれの上部を握り、左手をステップにかけ右足より乗車する。
3 シートベルトを装着する。
4 正しい運転をするため運転席の位置を調整する。
5 ハンドルのノブを左手で握る。
6 フォークを床面より5~10㎝上げる。[マストに印があり容易に合わせることができる]
7 ストマを一杯に後傾する(床面よりフォークの根元までの間隔15~20cm)。
8 前後左右の安全確認をする(確認は右手で行う)。指差呼称 左よし・右よし・後方よし・前方よし
9 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを前進に入れ、サイドブレーキを緩める。
10 右手を膝の上に置き前進する。
11 左折後、架台の前まで前進する。

実技車両はオートマチックのため、サイドブレーキを解除しフットブレーキを緩めると、アクセルを踏まずとも車両はスルスルと前進する。

スタートするとすぐさま左折しなければならないため、ハンドル操作が必要になる。右左折する際は曲がる地点へ向けて前輪を近づけていかなければならないため、スタートと同時にハンドルを少しばかり左へ回す。左前方のバックレストが角に差し掛かった時点で、ハンドルを1回半ほど左へ切る。視線は目標である架台の中心(目印あり)とフォークの中心(目印あり)を一致させることに集中し、ゆっくり進む。架台中心と、フォークの中心が一致した時点でハンドルを元に戻し、後輪を直進状態にする。ハンドルは据え切り可能である。


荷をフォークに乗せる

荷は2回取りする。荷を一旦架台の前面から5~10㎝範囲で手前に引き出し、再度フォークをバックレストの位置まで一杯に差し込み荷を積むのだ。

前進と後進を数回繰り返すことになる。減点の対象となる動きが集中する。架台とフォークの距離、パレットへのフォークの差し込みなどフォークリフトならではの作業技術が試される。この忙しい動きの中でも安全確認はおろそかにできない。

荷は1トンのコンクリート塊、フォークに乗せると気付かない程度ではあるが車体は沈む。フォークを降ろす際は、路面とフォークの下面が接触しないように注意しなければならない。

忙しい動きではあるが、複数の項目を一連の動作ととらえることができるものがある。文字で表現している77項目の動きを実際に講師から指導をうけた際、2項目を一連の動きとして教えられたのだ。例えれば項目21と22だ。左の後方確認する動きと前後進レバーを後進側へ動かす動作、サイドブレーキを緩める動作は一連の動きであった。左後方を指差呼称した左手をそのまま前後進レバーにもってきて後進側に入れる、サイドブレーキを緩める、という動きに必ずなるのだ。この一連の動きは何度も出てくる。



12 架台の手前で停車する(架台よりフォークの先端まで間隔30cm以内)。
13 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
14 フォークが水平になるまでマストを立てる(水平ボタンを押す)。
15 フォークをパレットの差込口の高さまで上げる。
16 フォークの位置の確認を行う。
17 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを前進側に入れ、サイドブレーキを緩める。
18 フォークの差込位置を確認しながら静かに前進し、フォークを根元近くまで入れて停車する(フォークの垂直部分より20cm以内)。
19 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
20 パレットを架台から5cm程度上げて、パレットの状態を確認し、パレットを水平にする。
21 後方の安全を確認をする。指差呼称 右後方よし・左後方よし
22 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを後進側に入れ、サイドブレーキを緩める。
23 パレットを架台外に5~10cm以内に引き出すまで後進し停止する。
停止位置・・・架台よりパレット後面まで間隔10cm以内
24 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
25 パレットを架台上に下し、フォークをパレットから遊離させる。
26 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを前進側に入れ、サイドブレーキを緩める。
27 車を前進させパレットがバックレストに軽く接触するまでフォークを差し込んで停止する。
28 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
29 パレットを架台から10㎝程度上げて、パレットを地切する(架台よりパレット底面までの間隔10㎝以下)。
30 後方の安全を確認する。指差呼称 右後方よし・左後方よし
31 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを後進側に入れ、サイドブレーキを緩める。
32 静かに行進し、パレットを架台外に出たところで停止する(停止位置・・・架台よりパレット全面までの間隔30㎝以内)。
33 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
34 パレットを床面より5~10㎝まで下げる。
35 マストを一杯に後傾する(床面よりパレット底面の間隔15~20cm)。


周回コース

コンクリート塊をフォークに乗せると左後方へ後進する。左前方バックレストが左への曲がり角と重なる辺りで左方向へハンドルを1回半ほど回す。左へ曲がり終え車体がまっすぐになったことを確認すると停止する。このとき視線は前方を向き、周回路を見る。

後進→停止→前方確認→前進と動きは進むが、フォークやマストの操作はないため、サイドブレーキは引かず、ブレーキのみで停止姿勢を維持、前方のみの安全確認の後、前進する。

36 後方の安全を確認する。指差呼称 右後方よし・左後方よし
37 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを後進側に入れ、サイドブレーキを緩める。
38 左後方に後進し、停止する。
39 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを中立にする。
40 前方の安全を確認する。指差呼称 前方よし
41 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを前進側に入れる。
42 次のコースに向かって前進、屈折コースを通過する(カーブ徐行)。
43 架台に向かって右折する。

周回コースの前進に困難はない。角を抜ける際、前輪が角に沿うようにハンドル操作を行うことになる。ハンドルは軽い。回しすぎないよう注意を払うことくらいだ。


荷を架台に乗せる

荷を乗せる際も2回乗せとなる。最も神経を集中させる作業だ。コンクリート塊を乗せたパレットを架台に記された枠の中に置くことが求められるのだ。架台には線が引かれ、線に沿わせてパレットを置くようハンドル操作をすることになる。

パレットを一旦架台前面に沿わせ、静かに置く。パレット前面は架台前面の手前になるように置かなければならない。架台前面とパレット前面の間隔は10㎝以内だ。パレット前面が架台の前面より手前でなければならない。2回目の作業ではバックレストにパレットが当たるまでフォークを差し込み、指定された架台の位置にパレットを置く。

フォークリフトの操作に慣れていない状況では、荷を架台に置く工程は最も難しい作業だ。この作業で減点されても仕方ない。容易な作業で減点されないようにすることが肝要だ。特に安全確認は声を出しメリハリをつけて元気よく行うことだ。

パレットの差込口やエッジボードなどにフォークを接触させてはならない。これは荷を乗せるときも降ろす時も同様で、フォークの高さ調整は慎重に行う必要がある。



44 架台の前で停止する。停止位置・・・パレットの前面が架台より30㎝以内
45 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
46 パレットが水平になるまでマストを立てる(水平ボタンを押す)。
47 パレットを架台より15cm程度高くなるまで上げる(架台とパレットの底面の間隔15㎝以下)。
48 パレットと架台下し位置の確認
49 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを前進側に入れ、サイドブレーキを緩める。
50 所定の下し場所まで前進し停止する(架台とパレット後面までの間隔10㎝)。
51 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
52 フォークを静かに下し、荷を架台上に置き、フォークをパレットから遊離させる。
53 後方の安全を確認する。指差呼称 右後方よし・左後方よし
54 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを後進側に入れ、サイドブレーキを緩める。
55 静かに後進し、フォークをパレットより20㎝程度引き抜いて停止する。
56 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
57 フォークを上げて荷を地切する(架台とパレット底面までの間隔10㎝以下)。
58 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを前進側に入れ、サイドブレーキを緩める。
59 車を前進させ、荷を正しい位置に付け、停止する。
60 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
61 静かにパレットを架台上に下し、フォークをパレットから遊離する。
62 後方の安全を確認する。指差呼称 右後方よし・左後方よし
63 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを後進側に入れ、サイドブレーキを緩める。
64 静かに後進し、フォークをパレットから抜き架台前で停止する。
停止位置・・・架台よりフォーク先端までの間隔30㎝以内
65 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
66 フォークを床面より5~10㎝まで下げる。
67 ストマを一杯に後傾する(床面とフォークの根元までの間隔15~20cm)。
68 後方の安全を確認する。指差呼称 右後方よし・左後方よし
69 ハンドルを右手で持ち、前後進レバーを後進側に入れ、サイドブレーキを緩める。


ゴール・スタート位置へ戻る

架台前からゴールまではバックで移動する。自分の体が曲がり角を過ぎたらハンドルを1回半ゆっくり左へ回す。左後部のタイヤと前輪の動きに注意を払い出発地点のラインに沿うよう車体を導く。急ぐ必要はない。




70 左後方コースの中央に向かって後進し、バックレストがスタート線上に来た所で停止する。
停止位置・・・スタート線より前後左右10㎝以内
71 ハンドルを右手で持ち、サイドブレーキをかけ、前後進レバーを中立にする。
72 フォークが水平よりやや前傾するまでマストを立てる。
73 フォークが床面に達し、チェーンが緩むまで下げる(フォークの先端は床面につけること)。
74 前後進レバー・サイドブレーキを確認する。
75 シートベルトをはずす。
76 下車時に車両左側の前後の安全を確認する。指差呼称 前方よし・後方よし
77 基本通り正しく下車する。
下車方法・・・左手でヘッドガードの握り手を握り、左足をステップにかけ、右手は座席の背もたれの上部を持ち、右足より後ろ向きに降りる。

スタートからゴールまでの標準時間は6分程度とされている。勿論時間がかかっても大きな減点にはならない。時間を短くするためにはアクセルを活用する。フォークを上昇させる際、マストを前傾させたり後傾させたりする際は、アクセルを踏み動きを速める。多少なりとも時間の節約につながる。

技能講習の目的は安全なフォークリフト作業の実現だ。運転技術の上手い下手は無関係だ。講習の目的を理解することが肝要だろう。

2016/10